宵闇市ガイド創刊号|巻末付録・第42ページ「地図に載らない二店とメニュー」

宵闇市まるごとガイド 創刊号

地図に載らない二店とメニュー

― 掲載されなかった、最後の飲食店記録 ―

長くなりましたが、これで最後の資料です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

通常の観光ガイドに始まり、編集途中の記録や、掲載を見送られた店舗の話まで、随分といろいろなものをご覧いただきましたね。

少しは、宵闇市という街に詳しくなれたでしょうか。
それなら何よりです。

最後にご紹介するのは、二軒の飲食店についての記録です。
どちらも、地図上で所在地を確認できなかった店舗として、取材資料に残されていました。

もっとも、地図に載っていないお店など、珍しくもありません。
小さな個人商店や、すでに営業を終えたお店。
地図の更新が間に合っていない場合もありますし、一般向けに公開されていない店舗もあるでしょう。

ですから、今回も特別なことを期待する必要はありません。
ただ、少々気になる記録が残っていましたので、最後に整理しておこうと思います。

Ⅰ.夕映食堂

最初にご紹介するのは「夕映食堂」というお店です。
残されていた資料によれば、ごく一般的な食堂だったようです。

定食や丼もの、麺類などを扱い、近隣の方が日常的に利用する店舗として紹介する予定だったと考えられます。
観光客向けの特別な料理があったわけではありません。
値段も、少なくとも取材票に残されている範囲では、ごく普通の食堂と変わらないようでした。

もっとも、金額の記載された原票を確認できなかったため、今回は具体的な価格を掲載しません。

問題は、所在地です。
取材票には店舗名がありました。
営業時間についてのメモもありました。
食事をした担当者の感想も残されています。

ところが、住所欄には地名が記載されていませんでした。

代わりに、こう書かれていたのです。

「帰り道を参照」

なるほど。
少し変わった書き方ですね。
所在地を文章で案内する店舗もありますから、必ずしも不自然ではありません。
ただ、通常であれば、行き方を記載するものではないでしょうか。

なぜ帰り道なのでしょう。
そこで、資料に添えられていた別紙を確認しました。

Ⅱ.食事の控えに記載された道順

別紙は、食事代の精算に使用したと思われる控えでした。
店名と日付、注文内容が記載されており、下部には簡単な道順が印字されていました。
レシートの裏などに、店舗案内を掲載する場合がありますよね。

おそらく、それと似たものだったのでしょう。

ただ、書かれていた道順は、少し妙なものでした。
最初の一文が、こうなっていたのです。

「店を出たら、最初の角を右へ」

……はい。
帰り道ですね。
店舗から外へ出るところから、説明が始まっています。
そのあとも、右折や左折、目印となる建物についての案内が続いていました。

しかし、最後まで読んでも、夕映食堂そのものの場所は書かれていません。
これでは、店を訪ねるための地図には使えません。

もっとも、お客様が食事のあとに迷わないよう、帰路だけを案内していたのかもしれませんね。

親切なお店です。
ただ、その道順には、最後にもう一文が添えられていました。

「途中からお越しになった方は、ここでお別れです」

ここでひとつ。
これは、どなたに向けた案内だったのでしょう。

途中から店へ来た方でしょうか。
あるいは、帰り道で合流した方でしょうか。
どちらとも取れます。

残念ながら、前後の説明がありませんでした。
ここからは推測するしかありません。

それは、あまり望ましくありませんね。

Ⅲ.夕映食堂のメニュー

取材資料には、手書きのメニュー表も残されていました。
内容は、ごく一般的なものです。

焼き魚定食。
生姜焼き定食。
親子丼。
うどん。
そうした料理が並んでいました。

ところが、一覧の一番下だけ、少し記載の仕方が異なっていました。

「帰りの定食」

妙な名前ですね。
旅行客向けに、帰る前の食事として提供していたのでしょうか。
あるいは、夕方以降に注文できる特別な定食だったのかもしれません。

その下には、注意書きがありました。

「おかわり無し」

別に、おかわりができない定食など珍しくありません。
店の方針でしょう。
問題は、その横に添えられていた説明です。

「一度でお渡しします」

……そうですか。
定食は、普通、一度で提供するものだと思うのですが。
お膳を分けて出す場合もありますから、その区別でしょうか。
これも、現在の資料だけでは判断できません。

結局、夕映食堂については、所在地と営業状況を確認できないため、掲載を見送っています。
なお、帰路の案内は、本誌には収録していません。

こちらから訪問をおすすめする店舗ではありませんので、ご了承ください。

Ⅳ.食事処 はしの間

もう一軒は「食事処 はしの間」です。

こちらは、季節の料理を提供する飲食店として記録されていました。
取材資料には、日替わりの献立や、季節限定メニューなどについての記載があります。
料理の写真も一部残されていました。

いずれも、特に珍しいものではありません。

煮物や焼き物、小鉢を組み合わせた食事です。
盛りつけにも、取り立てて不自然な点は見当たりませんでした。

しかし、こちらも所在地を確認できませんでした。
住所欄には、町名までが記載されていましたが、番地の記載がありません。
この程度なら、資料の不備として片づけられるでしょう。

問題は、添付されていた献立の記録です。

Ⅴ.季節限定メニューの管理表

飲食店では、提供した料理の数を記録することがあります。
食材の管理や、売上の確認などに必要だからです。

「はしの間」の資料にも、そうした管理表と思われるものが含まれていました。
日付ごとに、注文された料理の数が記録されています。
季節限定メニューについては、別の欄が設けられていました。
こちらには、注文数と提供数のほかに、返却された食器の数も記載されています。

少々細かい管理方法ですね。
ただ、業務上必要であれば、こうした記録を残すこともあるでしょう。

興味深いのは、ある日の記録です。
その日の季節限定メニューは、注文数がゼロとなっていました。

しかし、返却された食器の数には、数字が記入されていたのです。

注文数:〇
提供数:〇
返却食器数:二

……さて。
これは、どういうことでしょう。
単純な記入ミスかもしれません。

前日分を誤って記載した可能性もあります。
あるいは、従業員が食事に使用した食器を含めていたのでしょうか。
管理表には説明がありませんでした。

さらに、その翌日も、似た記録が残っていました。

注文数:〇
提供数:〇
返却食器数:一

注文されていない料理の食器が、返却されている。
そう読めてしまいます。
もちろん、管理表の項目の意味が、こちらの理解とは違っている可能性もあります。

ですから、これをもって異常な出来事があったと判断することはできません。
ただ、帳尻を合わせるために数字を修正することも、避けるべきでしょう。
そう考えて、原文のまま残すことにしました。

Ⅵ.一枚だけ残っていた献立札

こちらの店舗には、もう一つ確認できた資料があります。

季節限定メニューの献立札です。
料理名と、簡単な説明が書かれていました。

ただし、料理名の部分には修正が加えられており、最初に何と書かれていたのかは判読できませんでした。
その下には、次の一文が残されています。

「お食事を終えた方から、お渡しください」

普通に考えれば、食後に提供するお茶や菓子などを指しているのでしょう。
そういうものなら、特におかしくありません。
ただ、この一文が書かれていたのは、食後のサービスについての欄ではありませんでした。

献立の一番上です。
料理を注文する前に、目に入る位置でした。
それが少々、気になったのです。

もうひとつ。
献立札の裏面には、消し忘れたような鉛筆書きが残っていました。

「受け取りは一名ずつ」

これも、何のことかはわかりません。
注文した料理を一人ずつ渡すのでしょうか。
会計の際に、何かを受け取る仕組みがあったのかもしれませんね。

現在の資料から、そこまで判断することはできませんでした。

Ⅶ.二店舗に共通すること

今回、二軒のお店について、ここまでご紹介しました。

夕映食堂は、帰り道から始まる道順。
食事処 はしの間は、注文されていない料理の食器と、意味のはっきりしない献立札。

いずれも、店舗としての所在地や営業実態を確認するには情報が不足しています。
したがって、通常の観光ガイドに掲載しないという判断は、適切だったと思います。
何より、実際に営業しているのかどうかわからない店舗をご紹介して、読者の皆さまにご迷惑をおかけするわけにはいきませんから。

……ところで。
ひとつだけ、気づいたことがあります。

これは資料に明記されたことではありません。
ですから、あくまでも私個人の感想としてお聞きください。

夕映食堂には、帰り道が記録されていました。
はしの間には、返却された食器の数が記録されていました。
どちらにも、何かを受け取ったあとのことが書かれているのです。

行き方ではなく、帰り方。
注文ではなく、返却。
別々の店ですし、別々の資料です。

たまたま、そうなっただけなのでしょう。

ええ。

きっと、そうなのでしょうね。

Ⅷ.最後の記録

以上で、収録予定だった資料の整理は終わりです。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

通常の観光ガイドとは、随分違った内容になってしまいましたね。
あちらでは、街の名所や食事、宿泊施設などを紹介していました。
こちらでは、確認できなかったものや、掲載を見送った記録ばかり扱ってしまいました。

それでも、宵闇市について何かを知る手がかりにはなったのではないでしょうか。
必要以上に考えることはありません。

資料というものは、読んだ人間がどのように受け取るかによって、印象が変わることもあります。

ただし、記録そのものが変わるわけではありません。
……少なくとも、そのように扱うのが普通です。

最後に、こちらで使用した資料の管理表について、ご報告しておきましょう。
今回収録した内容は、すべて確認済みとして処理しました。

未確認の資料は、未確認のまま。
掲載を見送ったものは、掲載見送りとして。
無理に修正を加えることなく、整理しています。

残っているのは、返却先の確認だけです。

これまでご紹介した資料については、元の保管先へ戻す予定になっています。
ただ、その欄だけが空白でした。

もともと、どこに保管されていたものなのでしょうね。
……まあ、今さら考えても仕方ありません。
整理は終わりました。

皆さまも、これで読み終わりです。
どうぞ、最初のページに戻る必要はありません。

閉じていただいて構いません。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

それでは。

どうぞ、お気をつけてお帰りください。


『宵闇市まるわかりガイド』創刊号・巻末資料 了


宵闇市まるわかりガイド|創刊号・巻末付録

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