宵闇市ガイド創刊号|巻末付録・第40ページ「編集者・入手経路と装丁」

宵闇市まるごとガイド 創刊号

― このガイドが一冊になるまでのこと ―

さて、今回は少し趣向を変えましょう。
これまでの資料では、ガイドに掲載された情報や、編集途中に残された記録についてお話ししてきました。

しかし、そもそもの問題を忘れていましたね。
このガイドは、誰が作ったのでしょうか。

……いえ、もちろん、編集部の名前は記載されています。

本編を最後までお読みになった方なら、ご存じでしょう。

「宵闇市まるわかりガイド編集部」。

それで間違いありません。
ただ、編集部という名前がわかったところで、原稿を受け取った人間や、実際に編集した人間までわかるとは限りません。

今回は、そのあたりのお話です。

Ⅰ.編集部について

まず、一般的な話から始めます。

ガイドブックを制作する場合、すべての文章を一人で書くとは限りません。

現地で取材する人。
資料を集める人。
文章を整える人。
写真や図版を確認する人。
そして、それらをまとめて一冊にする人。

それぞれの担当者が作業を分担していても、完成したガイドには「編集部」とだけ記載されることがあります。

まったくもって、珍しいことではありません。

今回のガイドも、複数の資料や取材内容をもとに構成されています。
制作記録には、原稿の確認や修正に関する記載が残されていました。
もちろん、すべての担当者が明らかになっているわけではありません。
しかし、これも特におかしなことではないでしょう。

古い作業記録では、担当者の名前を省略する場合もあります。

問題は、その省略の仕方です。

Ⅱ.二種類の編集者欄

保管されていた制作資料には、編集者を記入する欄がありました。
普通のことですね。

ところが、同じ書類の控えとされるものに、二種類の様式が残っていました。

一方には、次の項目があります。
「編集担当者」
もう一方には、こう記載されています。
「最終確認者」
この程度なら、書式が変更されたと考えるのが自然です。
制作の途中で、より適切な項目名に変更したのでしょう。

ただし、ふたつの書類は、ほかの部分がほぼ一致していました。

印字された注意書きも、余白の幅も、欄の位置も同じ。
違っていたのは、その一箇所だけです。
しかも、両方に記入されていた名前は同じでした。

……取り敢えず、名前については、ここでは伏せておきます。
現在も関係者がいらっしゃる可能性がありますから。

ただ、筆跡は違っていました。
同じ名前を、別の人間が記入したのでしょうか。
それとも、印刷した書類に誰かが代筆したのでしょうか。
どちらも十分に考えられます。

そうであれば、何の問題もありません。

……そうであれば、ですが。

Ⅲ.原稿の受け渡しについて

原稿が完成するまでには、何度も資料の受け渡しが行われます。

取材担当者から編集者へ。
編集者から校正担当者へ。
確認を終えた原稿が、再び編集者の手元へ戻ることもあります。

今回残されていた受領記録にも、そうしたやり取りが記載されていました。
受け渡しの方法は、資料によって異なります。
電子ファイルとして保存されたものもあれば、紙の控えが残っているものもあります。

その中に、ひとつだけ、少し気になる記録がありました。
受領欄の隅に、手書きで次のような注意が添えられていたのです。

「返却時は、受領者に直接渡さないこと」

どう思いますか?
これはいったい、どういうことでしょうね。

一般的には、受け取った本人へ返す方が確実に思えます。
もっとも、職場によっては、返却先を別の担当者に指定する場合もあります。
ですから、これも不自然とまでは言えません。

ただ、肝心の返却先が書かれていませんでした。
別の書類に記載されていたのかもしれません。
残念ながら、そちらは確認できていません。

Ⅳ.同じ原稿が二度届いたこと

制作資料の中には、原稿が入っていたと思われる封筒も残されていました。
封筒そのものは、ごくありふれたものです。
差出人や宛先が記載されていないものもありましたが、編集部内で使用する封筒なら、そうしたこともあるでしょう。

……なのですが、二通の封筒については、記録が少し食い違っていました。

どちらにも、同じ原稿名が記載されていたのです。
内容も同じだったようです。
少なくとも、添付されていた原稿一覧では、一文字も違いがありませんでした。

ところが、受領方法が異なっていました。
片方は、担当者から直接渡されたもの。
もう片方は、保管場所から回収されたもの。
同じ原稿の控えがふたつ存在すること自体は、珍しくありません。

しかし、両方の受領欄に、同じ確認者の署名が残っていました。
署名そのものに問題はありません。
問題は、その下に記載されていた備考です。

一方には「初回受領」もう一方には「初回受領」と書かれていました。

……おそらく、どちらかが記入を間違えたのでしょう。
それ以上の意味を考える必要はないと思います。

私も、そういうことにしています。

Ⅴ.装丁見本について

次に、装丁の話をしましょう。
装丁というのは、表紙や背表紙、全体の見た目など、本の外側に関わるデザインのことです。
電子媒体が中心となった現在でも、紙の本を想定した見本や、表紙のデザイン案が制作されることがあります。
今回の資料にも、表紙や背表紙を検討したと思われる見本が含まれていました。

ただし、これらが実際に印刷・製本されたことを示すものではありません。
あくまで制作途中の見本です。
表紙には、宵闇市の名前と、創刊号であることを示す記載がありました。
全体の構成も、一般的な観光ガイドとして特に変わったところはありません。

ところが、ひとつの見本だけ、背表紙に別の文言が印字されていました。

「お持ち帰り用」

最初は、お土産向けの冊子であることを示す文言かと思いました。
観光施設で配布する案内冊子なら、あり得る表現です。
ただ、ほかの見本では「創刊号」と書かれている場所でした。
つまり、背表紙の同じ位置に、二種類の文言が存在していたことになります。

もちろん、デザイン案のひとつだったのでしょう。

私はそう考えています。

……のですが、どうしても気になることがあります。

「お持ち帰り用」という表現は、何を持ち帰るためのものなのでしょうか。
本でしょうか。
資料でしょうか。
それとも、本に掲載されている何かでしょうか。

……考えすぎですね。

おそらく、単に冊子のことを指しているのでしょう。

Ⅵ.見本に残された確認印

装丁見本の裏面には、確認印が残されていました。
印そのものは、一般的な作業用のものです。
その下に、短い手書きの指示が添えられています。

「表紙は変更しないこと」

これも、普通の指示です。
一度承認された表紙を、勝手に変更されては困りますからね。

ただ、その見本は最終案ではありませんでした。
少なくとも、保存されていた一覧では、後に別の表紙案が採用されています。
それなのに、変更禁止の指示だけは、次の見本にも引き継がれていました。

表紙のデザインは変わっているのに、変更してはいけない。
少し妙に思えますが、あるいは表紙全体ではなく、タイトルやロゴだけを指していたのかもしれません。
担当者の間では、きちんと意味が通じていたのでしょう。

そうでなければ、制作が進むはずはありませんから。

Ⅶ.この付録を書いている人間について

ここまで読んで、気になった方もいらっしゃるでしょう。
では、こうして資料を整理している私は、いったい誰なのか。

編集部の人間なのか。
外部の協力者なのか。
それとも、原稿を受け取った関係者なのか。

……もっともな疑問です。

ただ、申し訳ありません。
この付録では、私自身のことを詳しく説明するつもりはありません。

隠しているというわけではないのですよ。
書く必要がないと思っているだけです。
本編のガイドを執筆した方々と、私とでは、担当している仕事が違います。

あちらは、宵闇市を紹介するための文章を書いている。
こちらは、その周囲に残された資料を整理している。
それだけの違いです。

もちろん、資料を整理するためには、まず資料を手元に置く必要があります。
どうやって集めたのか、という話になりますね。

その点についても、特別な事情はありません。
渡されたものを受け取り、必要な順番に並べ直しています。

誰から渡されたのか。
そこまで知る必要があるでしょうか。

……失礼しました。

少し意地の悪い言い方になってしまいましたね。

Ⅷ.最後に残ったもの

今回の資料で、もう一つ気になるものがありました。

装丁見本に挟まれていた、小さな紙片です。
紙片には、特定の施設名や住所は書かれていませんでした。

ただ、裏面に一行だけ、手書きの文章がありました。

「これは返却するためのものではありません」

何のことを指しているのでしょうか。

装丁見本でしょうか。
原稿でしょうか。
それとも、受け取った封筒のことでしょうか。

前後の記録がないため、判断できません。

もっとも、何かを返却しなくてもよいという指示なら、特に問題はないでしょう。
そう考えれば、それで済む話です。

しかし、これまでの受領記録には、返却先を確認する記載がありました。
返却方法についての注意もありました。
その一方で、返すためのものではないと記されている。

……どうも、話がまとまりませんね。
ですから、この紙片については、結論を出さないことにしました。

無理にひとつの説明にまとめる必要もありませんから。

Ⅸ.次の資料について

ここまで、編集者や原稿の受け渡し、装丁に関する記録をご紹介してきました。

少々、退屈だったでしょうか。
申し訳ありません。
ただ、こうした細かな記録も、後から資料を確認する際には重要になるものです。

次のページからは、もう少し具体的な場所についてのお話になります。
通常のガイドでご紹介できなかった、三つの店舗に関する記録です。

いずれも、掲載を見送った理由が異なります。

ひとつは、確認が取れなかったため。

ひとつは、確認する必要がなくなったため。

そして、もうひとつは。

……いえ。

三つ目については、次の資料をお読みいただいた方が早いでしょう。

それでは、どうぞ。

今回も、わざわざ現地へ足を運ぶ必要はありません。

特に、三つ目については。


宵闇市まるわかりガイド|創刊号・巻末付録

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